ヘソの病気を早く発見するためにできること~ヘソ総論②〜

ヘソの病気を早く発見するためにできること~ヘソ総論②~ 子牛

《CowPlus+通信 Vol.12》

前回のヘソ総論①に引き続き、今回は「ヘソの病気を早く発見するためにできること~ヘソ総論②〜」について解説します。後半では実践編として、深部触診のやり方を動画でご紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。

皆さんがイメージするヘソの病気は、どんなものですか?

多くの方は「臍帯炎(臍炎)」を想像されるのではないでしょうか。

臍帯炎とは炎症がお腹の中まで進行せず、ヘソ付近にとどまっている病態を指します。

私(笹崎)の経験でも、農家さんから「ヘソが腫れていて、触れると太い芯がある」「ヘソを触ると痛がる」といった相談を受けて診察した場合、そのほとんどが臍帯炎です。

今回は基本的なヘソの解剖学やヘソの病気の種類、触診の方法などについて解説します。

ヘソの解剖学

臍帯イラスト

まずは、子牛のヘソ(臍帯)の構造について解説します。

上のイラストのとおり、ヘソの緒(いわゆる臍帯)は全部で4本あり、頭側と尾側それぞれに分岐しています。ヘソから肝臓に向かって走る臍静脈という管(赤色)が1本、ヘソから膀胱へとつながる尿膜管という管(黄色)が1本、そして膀胱の近くを通って背中側にある内腸骨動脈へとつながっている臍動脈という管(青色)が2本です。

★ヘソから前(頭側)に向かっているのが臍静脈、うしろ(尾側)に走っているのが尿膜管と臍動脈2本と覚えてください。

これらの管は出生時に役割を終えるため、生後数日のあいだに少しずつ細くなり退縮していきます。しかし、臍帯に細菌が入り込んでしまうと炎症が起こり、ヘソの病気になってしまうのです。

このようなヘソの病気を臍帯炎(臍炎)といいます。お腹の外側に出ている部分のみに感染や炎症が限局しているケースや、深部(腹腔内)まで広がっているケースなどさまざまですが、一般的に問題となるのは臍静脈と尿膜管がほとんどです。(まれに臍動脈に感染や炎症が起こるケースもあります。)

超音波などで検査すれば尿膜管遺残や臍静脈炎などと、より正確な診断をつけることができます。また尿膜管遺残の場合には膀胱とつながっているため、オス・メス関係なくヘソから排尿がみられることがあり、それが診断の一助となることがあります。

ヘソ関連の病気一覧

ヘソの病気一覧

ヘソの病気を一覧でご紹介します。

  • 臍帯炎(臍炎)
  • 臍静脈炎(臍静脈膿瘍)
  • 臍動脈炎(臍動脈膿瘍)
  • 尿膜管遺残(尿膜管膿瘍)
  • 臍ヘルニア

感染や炎症が起こる場所によって病気の名前が変わります。また、膿瘍の有無によっても治療方針が異なるため、最初の診断が肝心です。

ヘソ関連の病気を発症すると厄介なこと

ヘソで厄介なケース

ヘソは腹腔内の臓器とつながっているため、感染や炎症が深部へと進行してしまうと厄介です。

外科手術

臍帯炎の病態によっては完治が難しく、外科手術(摘出手術)が必要になるケースもあります。発熱や食欲低下を繰り返している場合には、特に注意が必要です。

発見の遅れ

ヘソ関連の疾患では必ずしもヘソが腫れるわけではないため、発見が遅れることがあります。たとえば腹腔内で膿瘍ができてしまっている場合には、ヘソそのものは腫れていないのに発熱や食欲低下がみられるケースもあるため、要注意です。

全身性の疾患への移行リスク

ヘソの感染が深部へと進んでしまうと、全身性の疾患に移行するリスクがあります。

  • 肝膿瘍
  • 敗血症
  • 腹膜炎
  • 膀胱炎
  • 腎炎など

ヘソから頭側に向かっている臍静脈は肝臓につながっているため、ヘソの感染が奥へと進んでいってしまうと、肝臓に到達するケースもあります。肝炎や肝膿瘍を引き起こすと、最悪の場合、敗血症となり細菌が全身の血液に乗って全身へとばらまかれ、死に至ることもあります。

一方、ヘソから尾側に向かっている尿膜管は膀胱とつながっており、さらに膀胱は腎臓へとつながっています。したがって、尿膜管が閉鎖しないで残っている状態(尿膜管遺残)では、ヘソの感染がダイレクトに膀胱へと広がり、膀胱炎や腎炎などの泌尿器疾患へと移行するリスクがあるため注意が必要です。

ヘソの疾患の見分け方・診断方法

ヘソの診断(深部触診)

ヘソの疾患の見分け方のポイントは、ズバリ「触診」です。

よく間違われやすいのは「臍帯炎」と「臍ヘルニア」ですが、よく触ってみるとヘソの芯の部分の硬さや感触によって鑑別することができます。臍帯炎ではヘソの芯が硬く・太く腫れていて、強く握ると圧痛があるため嫌がることが特徴です。一方臍ヘルニアでは、ヘソが太く見えるものの触ってみると芯がなく、水風船のような柔らかい感触があります。また、ヘソの付け根(腹壁の部分)を触ると穴が開いていて、脱出している腹腔内容物(大網や腸管など)を押し戻せることが特徴です。

特に、お腹のなかの管をたどって触診する「深部触診」という方法を使うと、ヘソの疾患の鑑別も可能です。少しコツがいりますが深部触診は農家さんでも簡単に実施できるため、ヘソの触診方法を覚えておくと役に立つと思います。

では、動画でやり方を解説します!ぜひ実際にやってみて、正常な子牛のヘソを臍帯炎の子牛のヘソで触り比べてみてください。

撮影/笹崎獣医師  ナレーション/松村(MERI)獣医師

まとめ

今回はヘソ総論②として、ヘソの解剖学や病気の種類について解説しました。最後にご紹介した「深部触診」はひとりでも簡単に実施できる診断方法のため、やり方を身につけておくと便利です。

ヘソの病気が進行すると深刻な病態になってしまうことも考えられるため、予防対策をしっかりと行い、ちょっとでも異常を発見したら早めに診察を依頼してくださいね。

笹崎先生

【獣医師】笹崎 直哉(Sasazaki Naoya)[ 笹崎牧場 ]

【経歴】鹿児島のシェパード中央家畜診療所にて7年3か月勤務し、和牛の診療に従事。うち4年間は大学院に通学し、博士号取得。退職後は長野県で開業。現在は牛を飼う獣医師としてジャージーと黒毛和種を計120頭飼養しながら、近隣農家の往診を行う。

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