《CowPlus+通信 Vol.18》
みなさんは家畜市場に子牛を出荷する前、どのようなことを意識していますか?
「ブラッシングを徹底して行う」
「飲水環境を整える」
「鉱塩をしっかり舐めさせる」
など、牧場によってさまざまだと思います。
今回は手間暇かけて育てられた子牛たちをセリ市でしっかりと評価してもらうために、事前にやっておきたいことについてご紹介します。
先日CowPlus+に届いたご相談
今回この記事を書くことになったきっかけとして、次のようなご相談がありました。
黒毛和種で市場に出す子牛が市場の会場で一泊するのですが、一泊するだけで牛がげっそりしてしまいます。
水は会場の水道からもらい、餌は草と配合それぞれ1日6kgとして余るくらい持っていきます。
ストレスで痩せてしまうのだと思うのですが、なにかアドバイスをいただけると幸いです。
では、こちらのケースについて詳しく解説していきます。
相談内容に対する回答
このケースでは、会場到着までの輸送ストレスと会場の環境ストレスが原因で食欲や活力が低下してしまい、結果として痩せてしまうのではないかと考えました。
そこで、ご相談者さまにセリ前の飼養管理について伺ったところ、下記のような回答をいただきました。
- 繋留馴致→未実施
- セリ前1か月間の粗飼料と配合飼料の給与量→1頭あたり粗飼料4kg、配合4.5kg
これを受け、CowPlus+が提案した飼養管理のアドバイスは次の2点です。
①繋留馴致の実施
②セリ前数日間(3日前後を目安)は、食べ慣れた乾草(チモシー、イタリアン、オーツヘイなど)を中心に給与
※のちほど詳しく解説します。
その後ご相談者さまから「体重の減少がいつもより少なかったようで助かった」との嬉しい報告をいただき、繋留馴致を含むセリ前の飼養管理がいかに重要であるかを理解していただけたと感じています。
では次に、提案内容2点について詳しく解説していきます。
繋留馴致について
繋留馴致とは、セリ当日や輸送中のロープに繋がれた環境に対して、前もって牛を慣れさせる処置を指します。
今回のご相談を受け、繋留馴致の認知度や実施率についてCowPlus+のX(旧Twitter)にてアンケートを行いました。
上記の結果から「もちろんやってる!」と回答した方は約3割、「やってない」と回答した方は約3割、「なにそれおいしいの?(=知らない)」と回答した方は約4割という結果になり、意外にも認知度や実施率が低いことがわかりました。
そこで今回は、繋留馴致のポイントについても解説していきます。
繋留馴致のポイント
繋留馴致の方法は単純で、朝の給餌後、頭絡にロープをかけて柵に繋がれた状態を維持するのみです。
実施期間については明確な指標はないため、哺乳形態が自然哺乳か人工哺乳かで分けて考えることをおすすめしています。
人工哺乳であれば、自然哺乳と比較して人間慣れしている、運動制限に慣れているという点で、馴致期間はセリ前7〜14日間がおすすめです。
自然哺乳であれば長めに確保し、セリ前14〜30日間を目安に設定すると良いかと思います。
ただし、注意点があります。
初めから何時間も牛を繋がないようにしましょう。
初めは頭絡をつけるだけでもストレスを感じる牛もいますので、初日は1時間程度とし、2日目から段階的に延長してください。
最終目標は、セリ開始から終了までを想定した時間の繋留です。
またこれは個人的な見解ですが、繋留馴致をすることで繋留に慣れていない牛よりも綺麗な姿勢を維持でき、セリの評価が高くなるのではないかと考えています。
さらに肌感覚ではありますが、繋留馴致をすることで牛をトラックに積んだり、下ろしたりする作業がスムーズになりました。
まだ繋留馴致をやったことがないという方は少し手間だと感じるかもしれませんが、一度試してみてはいかがでしょうか。
セリ前の餌を乾草中心にすることについて
「セリ直前まで配合飼料をしっかり食べさせてあげたい」と考えている方は少なくないでしょう。
それで順調にセリを迎える牛もいれば、残念ながら下痢をしてしまい体重ロスにつながるケースもあります。
そうさせないためにも、セリ前の牛を「よく草を食べて、よく水を飲んで、たくさん反芻する」状態にもっていくことが非常に重要だと考えています。
その理由は、繊維質が多く、カサのある粗飼料を充分に与えることで、セリ当日までに便性状を整える(良便にさせてセリ当日を迎える)ことが期待できるためです。
また粗飼料の給与は反芻を促し、それに応じて分泌される唾液はルーメンのpHを調整するためアシドーシスの予防にもなります。
なお、粗飼料はその牛が食べ慣れた(嗜好性が高い)ものを選ぶのがポイントになります。
ここまで粗飼料を中心に!とお伝えしましたが、決して配合飼料を与えてはいけないというわけではありません。
粗飼料を充分食べている前提で、配合飼料を与えるのであれば問題ないと思います。
さいごに
今回は、出荷する牛たちがベストな状態でセリ本番を迎えるために、日ごろの飼養管理のなかで工夫できるポイントについてお伝えしました。
繋留馴致に関しては特別な道具や手技を必要としない方法のため、興味があれば一度試していただけたらと思います。
また今回ご紹介した方法以外にも、セリ前はこんな管理がおすすめ!というアイデアをお持ちの方がいらっしゃいましたらぜひ教えてください♩
【獣医師】笹崎 直哉(Sasazaki Naoya)[ 笹崎牧場 ]
【経歴】鹿児島のシェパード中央家畜診療所にて7年3か月勤務し、和牛の診療に従事。うち4年間は大学院に通学し、博士号取得。退職後は長野県で開業。現在は牛を飼う獣医師としてジャージーと黒毛和種を計120頭飼養しながら、近隣農家の往診を行う。
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