下痢子牛の断乳を行うポイント

下痢子牛の断乳を行うポイント 子牛

《CowPlus+通信 Vol.16》

みなさんは「子牛が下痢をしているから」と、ルーティーンのごとく断乳をしていませんか?

下痢(腸炎)発生時には腸の粘膜に炎症が起きているため、その炎症を治める目的で断乳を行うことがあります。しかし、必ず実施しなければならないものではありません

この記事では、断乳をするメリット・デメリットや気をつけるべきポイントなどについて解説しますので、日ごろの子牛の管理に活かしていただけますと幸いです。

下痢をいち早く発見するために大切なこと

下痢をいち早く発見するために大切なこと

一言で下痢といっても、消化不良性や感染性のもの、軽症から重症のものまでさまざまなタイプに分かれます。

子牛の下痢をいち早く発見するためには、日ごろから注意深く子牛を観察しておくことが大切です。

  • 朝夕の検温
  • 活力・哺乳欲のチェック
  • 便性状の確認(軟便だったら要注意)

上記のようなポイントを中心に観察しましょう。

朝夕の検温が難しい場合には、体を触ってみて熱くないかなど発熱の兆候を確かめておくと安心です。

また、軟便がみられる場合にはその後悪化する可能性があるため、便の様子をよく確認するようにしましょう。

「断乳」のメリットとデメリット

「断乳」のメリットとデメリット

記事の冒頭でお伝えしたとおり、断乳の目的は「消化に時間がかかるミルクを与えないことによって胃腸の活動を休め、傷ついた粘膜を回復させること」です。

断乳には次のようなメリットとデメリットがあるため、よく理解した上で行うようにしましょう。

メリット・胃腸の回復を促進できる
・胃腸内での滞留を防げる
デメリット・子牛のエネルギー不足のリスクあり
・追加の水分補給が必要
・感染性の下痢には不向き

断乳は必ず実施しなければいけないものではありません。

子牛のお腹を休める必要があると判断できた場合に、適切な方法で行っていただくことが大切です。

まだ本格的な下痢に移行しておらず、軟便やペースト状の便性状であれば、断乳まで行わずミルクを規定量の半分まで制限して給与するという方法も効果的なため、参考にしてみてください。

断乳時に気をつけるべきポイント3点

断乳を行う際には、気をつけるべきポイントが3点あります。

  1. 断乳は「消化不良性の下痢」のみ実施する
  2. 断乳中も水分補給はしっかりと行う
  3. 断乳後、下痢が治ってもすぐ規定量のミルクを与えない

断乳を選択する際には、必ず下痢の原因を確かめるようにしてください。

白痢などのミルクの消化不良が原因の下痢であれば断乳が適していますが、ウイルスや細菌などが原因の細菌性の下痢では病原体の排出を遅らせてしまうリスクがあるため、断乳は推奨されません

また、子牛の水分補給はミルクがメインのため、断乳を行うことでかえって脱水を加速させてしまうリスクがあります。そのため、断乳中もしっかりと水分補給をさせるようにしましょう。

子牛の水分補給については記事の後半でまとめていますので、参考にしてみてください。

さらに、断乳を行ったあとの哺乳は、規定量の半分以下に調節するなどして、ゆるやかに増量するのがおすすめです。

朝断乳したはいいものの夕方すぐ規定量に戻してしまい、翌朝また下痢させてしまった…というケース(特にミルクの増量期)がよくみられるため、ミルクに戻す際には慎重に増やしていくようにしましょう。

断乳するかどうかの判断ポイント

断乳するかどうかの判断ポイント

子牛の下痢を発見したとき、「これは断乳すべきなんだろうか…」と悩んだことはありませんか?

必ずしも断乳は実施しなければならないものではなく、必要に応じて実施していただくのがおすすめです。

ここでは、断乳を実施するかどうかを判断するポイントをご紹介します。

【断乳が有効なケース】

  • 消化不良性の下痢
  • ルーメンドリンカー(ルーメン内の滞留)
  • 胃腸にミルクが滞留して拍水音が聞こえる場合

拍水音は、子牛の下腹部を揺らすと確認できます。聴診器がなくても聞こえる場合がほとんどなので、断乳すべきか迷ってしまった際には確認してみると良いかもしれません。

ミルクを薄めて飲ませるのはOK?

基本的に、ミルクは子牛にとって消化・吸収しやすい濃度(浸透圧)で作られています。

そのため、ミルクを水で薄めて子牛に飲ませるのは、かえって消化不良を起こす原因になるため推奨しません。

「断乳するほどでもないけど胃腸への負担は減らしたい…」という場合には、ミルクの量を半分にして数時間後に経口補水液を与えるなど工夫すると良いでしょう。

断乳期間は長くても丸1日まで

断乳を行う期間は、半日程度から長くても1日程度までにするようにしましょう。

哺乳期の子牛の主要なエネルギー源はミルクです。エネルギー不足と下痢による体力消耗が重なると、全身状態が悪くなり重症化してしまうケースがあるためご注意ください。

特に夏季や冬季など、暑熱ストレスや寒冷ストレスが大きい季節にはより多くのエネルギーを必要とします。余計なエネルギーを消耗させないように、各種ストレス対策も合わせてしっかりと行うと良いでしょう。

断乳中も水分補給はしっかりと!

断乳中も水分補給はしっかりと!

断乳時には、子牛の水分補給を意識する必要があります。

自ら水を飲んでくれる子牛であれば、バケツに新鮮な水を入れて置いておきましょう。

バケツから水を飲んでくれない子牛の場合には、電解質などの経口補水液を飲ませるのがおすすめです。

ここでは、子牛の水分補給に関する参考情報をお伝えします。

哺乳子牛の自由飲水による増体成績改善に関するデータ

(子牛の哺乳期における給水の有無が発育・採食性に及ぼす影響)

ー長野県畜産試験場研究報告 (33), 46-49, 2015-03ー

2015年の長野県畜産試験場による研究報告では、以下のような内容が報告されています。

『子牛の水分要求量は季節によるが、体重の10%に及ぶ。それを哺乳だけで補おうとせず、自由飲水もさせることで増体成績が改善する』

こちらの文献では、自由飲水による増体成績の改善傾向が示されています。

子牛にとって水分補給がいかに重要かわかるデータです。

したがって下痢によって水分を失った場合は、通常よりも多くの水分が必要になります。

経口補水液の作り方に関する書籍

書籍

名人が教える和牛の飼い方 コツと裏ワザ ー農文協編ー



砂糖と塩で作るお手軽な経口補液剤が紹介されている書籍があります。

この書籍によると、砂糖20gと食塩4.5g温水1リットルに溶かすと経口補水液が完成します。

市販の電解質製剤や経口補水液を用意しなくて済むため、低コストで作れるためおすすめです。

※砂糖の分量を増やしてしまうとかえって水分吸収を阻害させてしまい、悪影響を与えてしまうため注意してください。子牛の嗜好性よりも水分の吸収効率が大切です。

しかし、お手軽に作れる一方で、長期間の作り置きには向いていません。

雑菌が繁殖してしまう可能性があるため、作り置きは多くても当日分とし、必ず冷蔵庫などで保管するようにしましょう。

水分補給はスターターなどの飼料摂取に関しても欠かせないため、断乳の際は飲水環境についてもよく確認するようにしてください。

さいごに

今回は、哺乳期の子牛が消化不良性の下痢を起こした際に行う断乳についてまとめました。

断乳はダメージを受けた胃腸の粘膜を回復させることができますが、エネルギー不足や水分不足など気をつけなければならないポイントも存在します。

断乳を実施する際には適切な方法で行い、子牛の全身状態が悪くなっていくようであれば早めに獣医師の診察を依頼するようにしましょう。

笹崎先生

【獣医師】笹崎 直哉(Sasazaki Naoya)[ 笹崎牧場 ]

【経歴】鹿児島のシェパード中央家畜診療所にて7年3か月勤務し、和牛の診療に従事。うち4年間は大学院に通学し、博士号取得。退職後は長野県で開業。現在は牛を飼う獣医師としてジャージーと黒毛和種を計120頭飼養しながら、近隣農家の往診を行う。

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