《CowPlus+通信 Vol.4》
今回は「生後1週間の哺乳のポイント」についてご紹介します。
みなさんは普段子牛の哺乳を行う中で『衛生面は気をつけているのに、生後1週間以内の子牛の下痢が多いなぁ…』と悩んだことはありませんか?
実は、生後1週間以内の時期はそれ以降と比較して、消化酵素の分泌機能が弱いという特徴があります。そのため、ウイルス・細菌・寄生虫に感染していなくても、ミルクをうまく分解・吸収できないことが理由で下痢をしてしまうケースがあるのです。これを一般的に「消化不良性の下痢」と呼びますが、多くの牛は下痢をしても脱水症状によってぐったりすることはほとんどありません。
しかし、子牛がぐったりしていないからといって下痢を放置しておくと、正常な消化機能の発達が促せず成長が遅れてしまうリスクがあります。消化不良の子牛が頻繁に発生するようでしたら、一度哺乳管理を見直してみると良いでしょう。
生後1週間までの時期に足りないもの
では、具体的に生後1週間までの時期に足りないものを3つご紹介します。
第四胃における塩酸の分泌
塩酸には殺菌効果やタンパク質の分解を促す作用がありますが、出生直後は特に塩酸の分泌が少ないことが特徴です。ただしこれには一長一短あり、初乳にたくさん含まれる大事な免疫タンパク質(IgG)が分解されにくくなっているというメリットもあります。
ペプシノーゲン
ペプシノーゲンはタンパク質を分解する消化酵素で、生後1週間以内の子牛では分泌が少ないことが特徴です。
小腸で分泌される膵液や腸液
これらの分泌液は、炭水化物や脂肪、タンパク質を分解します。特に生後1週間以内の子牛では分泌が少ないことが特徴です。
消化不良性の下痢を防ぐ方法
次に、消化不良性の下痢を防ぐ方法3点について解説します。
生後1週間までは哺乳量を増やさないこと
1点目はシンプルに、「生後1週間までは哺乳量を増やさないこと」です。
無理にミルクを増量して、下痢をさせてしまっては意味がありません。子牛の様子を見ながら、ペースを抑えた哺乳をしてみてはいかがでしょうか。
母乳を給与すること
2点目は、「母乳を給与すること」です。
実はレンニンという消化酵素は生後1週間以内でも充分に分泌されており、レンニンはカゼインというタンパク質を選択的に分解します。しかし、代用乳に含まれるタンパク質はカゼインではなくホエイが主体であり、生後1週間以内の子牛にとってはホエイは消化しにくいタンパク質だといわれています。
また、母牛は初乳を分泌したあと、生乳として出荷できるまでの間に移行乳を分泌します。移行乳は初乳と常乳の中間の乳汁であり、消化管の絨毛発達や消化酵素の分泌を促進してくれる効果があるため、子牛への母乳給与がおすすめです。
ただし、母乳を与える場合には、乳房炎の有無や病原体の混入などに注意しましょう。PLテスターによる乳房炎の有無の確認や、パスチャライズ(熱処理)による殺菌などをしたうえで子牛に給与すると安心です。もし母牛の体調不良などにより品質が低い乳汁だった場合には、代わりにバルク乳を給与するのが良いかもしれません。
「ちびちび哺乳」で唾液をたくさん分泌させること
3点目は、「ちびちび哺乳」で唾液をたくさん分泌させる方法です。
哺乳期の子牛の唾液にはPGE(プレ・ガストリック・エステラーゼ)という脂肪分解酵素が含まれています。これは母乳由来の乳脂肪を選択的に分解してくれる酵素です。唾液は吸乳刺激によって分泌されるため、少しずつ何回も乳首を吸って唾液がたくさん出るような哺乳(いわゆる「ちびちび哺乳」)をさせることによって、乳脂肪が原因となる消化不良性の下痢を減らすことができます。
(Sasazaki)
「ちびちび哺乳」に適した、吸乳量を制限できるよう工夫された乳首「ミルク・バー」が販売されていますので、興味のある方は下記のリンクをご参照ください!
子牛の下痢でお困りの方は、ぜひ上記の3点を試してみてください。全身状態が悪い場合には感染が起きているケースもあるため、必ず獣医師の診察を依頼しましょう。
今回ご紹介したことのほかにも、哺乳器具の消毒や清潔な環境維持など、下痢を防ぐために工夫できることがあると思います。それぞれの牧場に合った管理方法を見つけて取り組んでいただければ幸いです。
【獣医師】笹崎 直哉(Sasazaki Naoya)[ 笹崎牧場 ]
【経歴】鹿児島のシェパード中央家畜診療所にて7年3か月勤務し、和牛の診療に従事。うち4年間は大学院に通学し、博士号取得。退職後は長野県で開業。現在は牛を飼う獣医師としてジャージーと黒毛和種を計120頭飼養しながら、近隣農家の往診を行う。
コメント