《CowPlus+通信 Vol.3》
今回は「生まれた子牛、吊るのはNG!?」というお話です。
正常な胎位で子牛が前肢と頭から出てきた際には、頭部が下がったときに食道〜胃の中にある羊水が自然と吐き出されます。昔から、生まれた子牛が飲み込んでしまった羊水を吐き出させるために、頭を下にして吊る行為が行われてきました。しかし現在の常識では、生まれた子牛を吊る行為はNGといわれています。また、布団干しのように柵などに子牛の腹部を乗せて放置する方法も、内臓損傷のリスクがあるため危険です。
ただし、吊った方が良いケースもあるため、これについては後半で解説します。
NGと言われる理由3点
まずは、吊らない方が良いといわれる理由3点について解説します。
NGの理由①:肺にダメージを与えるリスク
逆さまに吊ることによって、内臓の重さで肺が圧迫されてしまうリスクがあるため注意しましょう。呼吸機能が未熟な子牛の呼吸を妨げ、場合によっては肺にダメージを与えてしまうリスクがあります。
NGの理由②:血圧変動の影響
子牛を逆さ吊りにすることによって頭部に血液が集中してしまい、血圧が大きく変動して子牛に負荷がかかります。つまり、逆さに吊ったあと、子牛を下ろした瞬間に大きな血圧変動が起こることによる子牛への影響が心配されており、注意が必要です。特に長時間吊ったまま放置するのは大変危険なのでやめましょう。
NGの理由③:肺への誤嚥の場合には、逆さにしてもほとんど吐き出せない
通常、逆さに吊ることで排出される羊水は鼻腔や食道・胃に入っていたものであり、肺への誤嚥の場合には逆さにしてもほとんど吐き出すことはできません。吊る方法が有効なのは、羊水を「飲み込んでしまった」or「吐き出せていない」場合のみです。
肺へ誤嚥してしまって呼吸が不安定な場合には、子牛用の人工呼吸器が役に立ちます!
一家に一台、ぜひご準備くださいね。
《仔牛用人工呼吸器キット(株式会社野澤組)》
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【例外】吊った方がいいケース
次の2つのケースでは、適切な方法で子牛を逆さに吊ってみるのも有効です。
- 羊水を誤飲している or 吐き出せていない場合
- 逆子だった(後肢から出てきた)場合
子牛に負担がかかりにくい吊り方は、以下の方法がおすすめです。
- 子牛の頭が地面からちょっとだけ離れる程度の高さに持ち上げる
- 上げたまま15秒間キープ
- 完全に地面に下ろす
- ②・③を数回繰り返す
数回繰り返しても羊水が出てこないのであればそれ以上やっても出てくることはないため、吸引に切り替えましょう。あまりにも呼吸が苦しそうな様子が続くようであれば、獣医師の往診を依頼してください。
生まれた子牛の観察ポイント
さいごに、子牛の状態を見極めるためのポイントを解説します。
- 呼吸しているか
- 呼吸は一定のリズムか
- 苦しそうな様子はないか
- 自分で座れるか
呼吸が苦しそうな様子があれば、伏臥位(伏せの体勢)にさせて様子をみるか、酸素吸入を行う方法もあります。伏臥位にさせることで、両側の肺が膨らみやすくなるため呼吸が楽になります。酸素吸入をする場合は普段から酸素ボンベを常備しておくのも良いですが、ホームセンターなどで手軽に手に入る酸素缶を使うと便利です。
伏臥位にもできない、もしくは改善がみられなければ、すぐに獣医師の往診を依頼してくださいね。
【代表・獣医師】MERI:松村 恵里 [ MERI writing lab ]
【経歴】北海道農業共済組合で獣医師として7年勤務したのち退職。2023年4月からWebライターとして活動中。診療経験は牛(乳牛、肉牛)、馬(サラブレッド)。猫2匹と暮らす1児の母。
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