《CowPlus+通信 Vol.11》
今回は「ヘソの病気を早く発見するためにできること~ヘソ総論①~」について解説します。「ヘソ総論①(今回)」の次は「ヘソ総論②」、そして「実践(動画)」へと続きますのでどうぞお見逃しなく!
生まれたばかりの子牛の管理をしていて、このような経験をしたことはないでしょうか?
①分娩室やハッチが衛生的&すぐにヘソを消毒をしたのに臍帯炎になった
②ヘソの腫れが目立たないのにヘソの病気だと診断された
ちゃんとやってるのに…というお困りの声が聞こえてきますね。
今回は①の謎を紐解いていきます。②は次回解説しますのでお楽しみに!
出生直後のヘソ処置の流れ
あくまで一例ですが、ヘソの処置の流れは以下のようなものが一般的かと思います。
臍を汚染させないように衛生的な部屋(床材)を準備する
↓
臍帯に溜まった血液をしごいて出しきる
↓
臍からの出血の有無を確認
↓
出血がなければヨード系消毒剤で消毒
ちなみに笹崎牧場では、PVPヨード(ヨードチンキ)の入ったディッピングカップで複数回ディッピングしています。
上記のようにしっかり処置していても、その後ミルクを残したり、発熱したりを理由に獣医さんに診てもらったら『ヘソが原因だ』と言われるケースもあるのではないでしょうか。その理由について、次のような報告があります。
難産と臍疾患の関係性
2018年の岩手県獣医師会報 (Vol. 44 (No 1).14 – 16)によると、岩手県農業共済組合は次のように難産と臍疾患の関係性を考察しています。
- 臍帯の異常(※)は難産の際に増加し、難産による分娩は正常産と比べ臍帯の正常構造が保たれず、臍帯への細菌感染につながる
- 難産の発生件数と臍疾患の発生件数は平成27年を境に急激に増加している
※臍帯の異常というのは臍帯断裂(臍の開口部から臍帯が引き抜けてしまう等)を指します。つまり「新生子の臍帯が根元から切れていたケース」がこれに該当します。臍帯が根元から切れてしまったケースでは、私の臨床経験を振り返っても臍疾患に移行することが多いように感じています。
ヘソの病気を発症しやすいケース
以下のようなケースでは、臍帯炎のリスクが高いといわれています。
- 過大子で難産
- 自然分娩を待てず、胎子を早期に牽引(必要以上の介助により、逆に難産にさせてしまった)
子牛が生まれたら分娩介助の有無にかかわらず、臍の処置だけで満足せず、臍帯が根元から切れていないかどうかをよく確認してください。切れていた場合には、その後も注意深く観察を続けるようにしましょう🐮
出生状況の記録をつけておいたり、かかりつけの獣医さんに相談したりするのも良いかもしれません。汚染状況によっては、抗生物質を予防投与するケースもあります。
なお、私がいる笹崎牧場では新生子のヘソが根元から切れていた場合、従業員さんにも分かるようにハッチの柵の上部に洗濯バサミを挟んで『ヘソ注意!』という目印を付けています。
目印があるとこまめにヘソをチェックするように意識が向くためおすすめです!試してみてくださいね。
【獣医師】笹崎 直哉(Sasazaki Naoya)[ 笹崎牧場 ]
【経歴】鹿児島のシェパード中央家畜診療所にて7年3か月勤務し、和牛の診療に従事。うち4年間は大学院に通学し、博士号取得。退職後は長野県で開業。現在は牛を飼う獣医師としてジャージーと黒毛和種を計120頭飼養しながら、近隣農家の往診を行う。
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