《CowPlus+通信 Vol.8》
Vol.6でご紹介した「子宮内膜炎の治療法」に付随して、今回はさらに深掘りした「子宮内膜炎の予防対策」について解説します。
【栄養編(今回)】と【環境編(次回)】の2回に分けて配信しますので、ぜひチェックしてみてください!
子宮内膜炎は非常に厄介ですよね…
分娩後、発熱や食欲低下など、いわゆる全身症状が出ているような状態であれば農家さんも牛さんの変化に気付くことができます。
一方、子宮内膜炎に関してはそういった全身症状が出ないことが多いため、大変悩ましい疾病です。
胎盤(後産)停滞や死産だった場合は「子宮内膜炎になるかも」と予測できるので、獣医さんに定期的に診てもらおうという気持ちになりやすいかと思いますが、「何も気にならなかった」牛さんが産後の初回授精の際、『粘液が汚れていてガッカリ…』なんてこと、ありませんでしたか?
早速今日からできる対策方法もありますので、子宮内膜炎予防について一緒に考えていきましょう!
栄養面での子宮内膜炎対策
今回は、栄養面での対策方法を3つご紹介します。
ビタミンAD3E製剤の投与
ビタミンAは粘膜上皮の形成を促し、免疫力を上げる効果があります。
ビタミンD3は腸管におけるカルシウムの吸収を促すため、低カルシウム血症の予防に使われます。
実は胎盤(後産)停滞の原因として低カルシウム血症が関係しているため、ビタミンD3を投与し低カルシウム血症を防ぐことができれば、結果的に子宮内膜炎の予防に結びつくのです。
ビタミンEは白血球(好中球)の働きを促進させる効果があります。
分娩時、産道内への異物や菌の汚染をゼロにすることはできません。しかし、病原菌が侵入しても好中球などの免疫細胞がしっかりと働いてくれれば、子宮内膜炎への移行を防ぐことができます!
分娩前の増しエサに育成飼料やスターターを選ぶ
ボディコンディションに配慮しながら、分娩前の増しエサに育成飼料やスターターを選ぶことも有効です。
分娩前は胎子の成長とともに母体へのタンパクの要求率が上がります。また、分娩後も子宮の回復に
タンパクが使われるため、飼料中の粗タンパク質の含有率が高い育成飼料やスターターを増しエサとして混ぜて使うのがおすすめです。
または、それらを使わずに加糖加熱処理大豆油粕(いわゆる、ルーメンバイパスタンパク質)を添加するのも効果があります!
ただし、過剰給与によって太らせないように注意してください。過肥(太りすぎ)は難産のリスクや産後のケトーシスなどの代謝疾患になるリスクがあがり、その後子宮内膜炎に移行しやすいためです。
微量ミネラルの添加
亜鉛を代表とする微量ミネラルは、ビタミンAと同様に粘膜上皮組織の再生や免疫力を上げる効能をもっています。
ただし、与えすぎると過剰症(中毒)のリスクがあるため、ほかのエサとのバランスを取りながら適量を守ってください。
まとめ
今回ご紹介した栄養面での対策方法を生かして、子宮内膜炎を予防していきましょう!
粘液が白濁していたり、発情周期が乱れていたりする場合には子宮内膜炎のサインかもしれません。また、症状が見えない場合でも、「潜在性子宮内膜炎」を患っているケースもあります。
早期発見・早期治療を心がけ、子宮内膜炎にさせない環境づくりを目指していきましょう!
【獣医師】笹崎 直哉(Sasazaki Naoya)[ 笹崎牧場 ]
【経歴】鹿児島のシェパード中央家畜診療所にて7年3か月勤務し、和牛の診療に従事。うち4年間は大学院に通学し、博士号取得。退職後は長野県で開業。現在は牛を飼う獣医師としてジャージーと黒毛和種を計120頭飼養しながら、近隣農家の往診を行う。
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