《CowPlus+通信 Vol.14》
今回は「蹄病の応急処置と治療のポイント」について解説します。
蹄病になってしまったときに牧場でできる応急処置や、治療のポイント・ブロック(ゲタ)を装着するコツなどについてもご紹介しますので参考にしてみてください。
特に、装着したブロックが1日で取れてしまう方は必見です…!
牛の飼養管理をしているなかで、次のような牛を発見したことはないでしょうか?
- なんとなく寝起きしにくそう
- 起立する際に前足が立ちにくい
- 特定の足に体重を乗せないようにしている
上記のような場合には、足の痛みを伴う蹄病が隠れているかもしれません。
私(MERI)の経験上でも、慢性的な足の痛みを抱えている牛の生産寿命は短く、足元が健康な牛ほど長く活躍している印象です。
定期的な削蹄を依頼している方も、自家削蹄している方も、こまめな蹄チェックをどうかお忘れなく!
蹄病の種類
まずは、牛でみられることが多い蹄病を一覧でご紹介します。
- 蹄血斑
- 蹄底潰瘍
- 白帯病
- 挫跖(ざせき)
- 蹄葉炎
- 裂蹄
- 趾皮膚炎(DD)=いちご状皮膚炎
- 趾間ふらん
- 趾間過形成
飼養形態(フリーストール、フリーバーン、繋ぎ飼いなど)や放牧の有無によっても発生しやすい蹄病が異なります。
特定の蹄病が多い場合には飼養環境の見直しが必要なため、削蹄師や獣医師に相談してみてください。
蹄病を放置するリスク
牛が慢性的に足の痛みを抱えている状態は、全身の健康に影響を及ぼすリスクが高くとても危険です。また、患肢への負重を避けた結果、反対の蹄にも蹄病が発生するケースもあります。
ここでは、蹄病を放置するリスクについて解説します。
生産性の低下
蹄病の経過が長くなればなるほど、慢性的な疼痛による生産性の低下が顕著にあらわれます。
具体的に起こりうる状態は以下のとおりです。
- 活力および食欲の低下
- ボディコンディション(BCS)の低下
- 乳量低下
- 受胎率低下
- 発情周期の乱れ
そのほか、感染がある場合には発熱がみられて全身状態が悪くなり、二次的にほかの病気につながってしまうケースもあります。
牛にとって、痛みはストレスそのものです。
したがって、次の削蹄までちょっと我慢してもらおう…という考えは危険かもしれません。
フレグモーネ
フレグモーネ(蜂窩織炎)とは、皮下組織に感染や炎症が起こることによって腫れや痛みを伴う病気です。
フレグモーネは外傷(ケガ)によって発生することが多い一方で、蹄病が進行して感染を起こしフレグモーネへと発展するケースもあります。肢がパンパンに腫れてしまい痛みも強いため、早めに治療を依頼しましょう。
牧場ですぐにできる応急処置
牧場ですぐにできる応急処置の方法としては、次のような方法があります。獣医師の診察までに時間がかかる場合には、患肢の負担を軽減することを意識して対処すると良いでしょう。
- 牛床の敷料を増やす
- 単独隔離して運動制限
- ゴムマットの使用
- 蹄保護のための包帯
- 食欲低下がみられる場合には鎮痛剤を使用(※出荷制限がつくため要注意)
なお、これらの方法はあくまで応急処置のため、痛みがある場合にはすみやかに獣医師の診療を依頼してください。(放置してしまうと…生産性の低下につながるリスクがあります。)
削蹄方式の違いについて
牛の全体重を支えている蹄は、定期的に削蹄をして常にバランス良く負重できる状態にしておくことが大切です。主な削蹄方式には次の2つがあります。
ダッチメソッド
ダッチメソッド(機能的削蹄)とは、蹄病になりにくく健康的な蹄を保ちやすい削蹄方式です。ヨーロッパで始まった削蹄方式で、蹄の機能そのものを重視しています。削蹄の手順や蹄角度などの基準が決まっており、理想的な蹄の形を再現しやすいことが特徴です。
ジャパンメソッド
ジャパンメソッドとは、日本で昔から行われてきた削蹄方式といわれています。農耕馬の削蹄を応用したとの説もあり、牛1頭1頭の蹄の形に合わせて削蹄することが特徴です。
削蹄治療のポイント
蹄病を発症してしまうと削蹄治療が必要になるケースがほとんどです。
ここでは、患部の処置とブロックの装着のコツについて解説します。
患部の処置
蹄病を治療する際には、ただ患部を削るだけでなく、痛みのある患部に体重が乗らないようにする工夫が大切です。牛の蹄は蹄壁(フチの部分)で体重を支えているため、蹄の機能を意識しながら処置すると良いでしょう。
偶蹄目の牛では、体重をメインで支える「基準蹄」が決まっています。前肢は外蹄、後肢は内蹄です。したがって、基準蹄の蹄壁は必ず温存し、基準蹄ではない蹄(反基準蹄)ではヒールレス(蹄のかかと部分を低くすること)にするのがポイントです。
なお、フリーバーンやフリーストールの場合には運動量が多いため、罹患蹄はヒールレスにして反対の蹄にブロック装着をするのがおすすめです。繋ぎ飼いの場合には歩き回ることがないため、基本的にはヒールレスのみでも問題ありません。ただし、蹄病の状態によってブロックを付けた方が良い場合もあるため、装着を迷うほどの状態であればブロックを装着しておくことをおすすめします。
ブロック(ゲタ)装着のコツ
「せっかくブロックを装着しても、1日で取れてしまう…」という場合には、付け方がまちがっている可能性があります。
ブロックは最低でも1週間ほどは外れずにくっついているのが理想です。ここでは、外れにくいブロックの装着方法についてご紹介します。
- ステップ1患部の処置
- ステップ2ブロックを装着する蹄(患部がない方)の汚れを徹底的に落とす
(蹄底だけでなく蹄側面の汚れも落とす)
- ステップ3接着剤を調整し、まずは直接蹄に塗る
(蹄底だけでなく蹄側面にも塗るのがポイント)
- ステップ4ブロックにも接着剤を付けて蹄にくっつける
- ステップ5しっかり固まるまで、5分以上待つ
ブロックがすぐに取れてしまうケースでは、蹄の汚れがしっかり落とせていないか、蹄が濡れている可能性が考えられます。汚れをしっかり落とすことと乾燥させることの2点を意識してブロックを装着してみてください。なお、こびりついた汚れがある場合にはグラインダーを使用すると便利です。
また、ブロックは木製のものとプラスチック製のものがありますが、基本的にはどちらを使用しても問題ありません。ただし、お互いにメリットやデメリットがあるため、それを考慮してお好きなものをお使いください。
◎木製ブロックの特徴
- メリット:外れて溜め池などに入ってしまっても、自然と腐り土にかえる(環境への負荷が少ない)
- デメリット:摩耗しやすい
◎プラスチック製ブロックの特徴
- メリット:摩滅しにくく、高さを維持しやすい
- デメリット:外れてしまっても自然にかえることはない(環境への負荷あり)
全身投与の併用
痛みが強かったり感染があったりする場合には、抗菌薬(抗生物質)や抗炎症薬の全身投与が有効です。一般的に使用されている薬剤は次のとおりです。
〈注射:抗菌薬〉
- ベンジルペニシリン(PCG)
- カナマイシン(KM)
- アンピシリン(ABPC)
- セフチオフル(CTF)
〈注射:抗炎症薬〉
- フルニキシンメグルミン
- メロキシカム
〈内服:鎮痛剤〉※人体薬の場合は1か月間の出荷制限あり
- ジクロフェナクNa錠
- メロキシカム錠
また、フレグモーネなどの場合には、抗菌薬の局所投与(RLP:リムパーフュージョン)が有効なケースもあるため、状態に応じて選択すると良いでしょう。
搾乳牛であれば、できるだけ薬を使わずに治療したいと考える方も多いと思います。ただし、症状によって全身投与を併用したほうが早期治癒が期待できる可能性もありますので、ぜひ獣医師にご相談ください。
包帯の必要性
結論からいえば、蹄病処置後の包帯は必ずしも必要というわけではありません。むしろ、包帯を外し忘れて足に食い込んでしまい大変なことになってしまった…というケースも散見されますので、必要最低限の使用にとどめたほうが良いでしょう。
ただし、趾間腐爛・蹄球びらん・趾皮膚炎などの皮膚に異常があるケースでは、軟膏などを塗布して包帯で保護することもあります。獣医師から包帯の除去を依頼された場合には、忘れずに外すようにしましょう。
まとめ
今回は、蹄病の応急処置や治療のポイントについて解説しました。蹄病の発見や処置が遅れると牛の生産性低下に直結するリスクがあります。蹄病を放置するリスクを正しく理解したうえで、牛のためにも早め早めの対処をお願いいたします。
また、蹄病治療において大切なポイントについても詳しく解説しました。私自身、現場に立っていたときは蹄病治療が苦手分野でブロックを装着するのも苦労していましたので、この記事がお役に立てれば幸いです。
【CowPlus+代表・獣医師】
MERI:松村 恵里 [ MERI writing lab ]
【経歴】北海道農業共済組合で獣医師として7年勤務したのち退職。2023年4月からWebライターとして活動中。診療経験は牛(乳牛、肉牛)、馬(サラブレッド)。猫2匹と暮らす1児の母。
【削蹄師】柿木 勇人 [ 霧島削蹄所 ]
【経歴】1級認定牛削蹄師。酪農ヘルパーとして15年勤務したのち、鹿児島県霧島市で霧島削蹄所を開業。九州全域を駆け回りながら、ダッチメソッドで牛に優しい削蹄を実践。
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